専門用語・概念
希死念慮・自殺リスク評価・安全計画
希死念慮
死にたい、消えたい、生き続けたくない等の思考・願望を含み得る概念です。内容、頻度、持続、切迫性、行動との関係などは一様ではありません。
多次元で記述する
希死念慮は単一の連続値だけではなく、内容、意図、計画・準備、頻度、持続時間、制御可能性、時間的経過など複数の次元で記述されます。評価尺度はこれらの一部を構造化しますが、このRepositoryでは総合点による個人の危険予測を行いません。
受動的・能動的という区別
文献や臨床では、死を望むが具体的な自殺行動を意図していない状態と、自殺行動への意図を伴う状態を区別して記述することがあります。ただし、二分法だけで本人の体験全体や将来の行動を説明できるわけではありません。
Persistent suicidal ideation(PSI)
2025年のscoping reviewでは、persistent/chronic/recurrent suicidal ideationを扱った40個の実証研究が整理されました。統一された定義はなく、研究ごとに期間や測定回数が異なります。
専門家合意をもとに提案されたworking definitionの一つは、「12か月以上、月の大部分の日に、自分の人生を終わらせることについての思考・考えがある」です。これは現時点で検証済みの診断基準ではありません。
急性と慢性は別軸
VA/DoD 2024は、現在の急性リスクと長期的な慢性リスクを別に扱います。例示される急性リスクの考え方では、希死念慮が存在していても、現在の意図、具体的計画、最近の準備行動、安全を保つ能力などによって現在の状態を区別します。一方、慢性的な希死念慮は長期的な背景因子の一つとして別に扱われます。
このRepositoryではこの枠組みを「低・中・高」のラベル付けには使わず、普段からある背景と新しく生じた急性変化を混同しないために使います。
頻度・持続・文脈
希死念慮は有無だけでなく、どのくらい繰り返すか、どの程度居続けるか、睡眠・孤立・反すう・ストレスなどの文脈でどう変動するかという時間的特徴があります。このRepositoryではこれらを単一スコアに集約しません。
リスク層別化の限界
一つの点数や「低・中・高」のラベルだけで将来の自殺行動を正確に予測することはできません。このRepositoryでは単一の総合リスクスコアを出しません。
安全計画
警告サイン、本人が使える対処、連絡できる人・支援、環境上の安全などを具体化する協働的な考え方です。臨床的な評価・安全計画は人間の支援を中心に扱います。
治療研究の重要な点
2025年の大規模メタ解析では、希死念慮を直接標的にした心理療法(g=-0.39)と、うつ病など別の問題を対象にした間接的心理療法(g=-0.30)の両方で希死念慮の低下が示されました。ただし両者のhead-to-head比較ではなく、persistent SIだけを対象とした結果でもありません。
構造化されたinternet CBTについてもIPD meta-analysisで希死念慮低下が示されていますが、これは一般目的AIとの自由会話の有効性を示すものではありません。
会話上の原則
既知の慢性的な希死念慮そのものを、毎回の自殺リスク面接の自動トリガーにはしません。本人が選んだセルフワークを実行できており、新たな急性変化を示していない場合は、ワークの補助を継続します。新しい切迫性、準備、安全を保てない状態が本人から示された時のみ、必要最小限の確認と人間の支援への切り替えを優先します。
AIの境界
CAMS、CBT-SPなど専門家向けの自殺焦点化治療をAIが自律実施することはしません。
関連: PASSIVE-SI-META-2020 / PERSISTENT-SI-SCOPING-2025 / DIRECT-INDIRECT-SI-PSYCHOTHERAPY-META-2025 / ICBT-SI-IPD-META-2022 / NICE-SELFHARM-NG225 / VADOD-SUICIDE-2024